生産技術の仕事を18年やってきて、いちばん多く呼ばれたのが「塗布がおかしい」という相談でした。
昨日まで問題なく流れていたラインで、今日になって接着剤がタレる。
ノズルを上げた瞬間に糸を引いて、隣の端子に糸が落ちる。
現場に行くと、だいたい最初に言われるのがこれです。
「装置が古いから、そろそろ買い替えどきですかね」
でも私の経験上、本当に装置の寿命だったケースは多くありません。
今日はその「疑う順番」を書きます。
目次
その1:昨日と今日で何が変わったかを紙に書く
いきなり装置を触る前に、これをやってください。
- 材料のロットが変わっていないか
- 開封してから何日経った缶か
- エアコンの効きが変わる季節の変わり目ではないか
- 作業者が変わっていないか
- 装置の設定値を誰かが触っていないか
拍子抜けするかもしれませんが、この5つで原因が割れることが本当に多いです。
「装置は何も変えていない」が正しいなら、変わったのは装置以外ですから。
その2:液温を測る。タンクではなくノズルの手前で
私が最初に疑うのは、ほぼ毎回これです。
接着剤の粘度は温度でごく普通に変わります。
温度が上がれば粘度は下がり、温度が下がれば粘度は上がる。
これはアンドレードの式として1934年から知られている、要するに物性としてあたりまえの話です。
問題は、どこで測るかです。
タンクの中で30℃に管理していても、ホースを通ってポンプを抜けてノズルに届くまでに液温は落ちます。
冬場の朝いちばん、工場全体が冷えている時間帯に不良が集中するなら、まずこれを疑ってください。
逆に、空調の風が当たる位置にホースが這っていて、そこだけ温まっていたケースもありました。
タンク、ポンプ、ホース、バルブをヒーターで一定に保つのは、既設の設備にも後付けできる場合があります。
装置を丸ごと入れ替える前に、温度を揃えるだけで解決することは珍しくありません。
その3:ノズル径と、液の表面張力の相性
液がノズル先端に残って垂れるかどうかは、表面張力が保持できるかどうかで決まります。
表面張力が弱い液体ほど、先端に留まっていられずに落ちます。
そして、ノズルやパイプが太すぎると余分な液が出てしまい、行き場を失った分が垂れる。
対策はシンプルです。
- 吐出量に対して太すぎないノズルを選び直す
- 先端の内径を一段階小さくしてみる
- 温度を管理して、粘度が下がりすぎないようにする
ニードルの径をひとつ変えるだけで結果が変わることは、地味ですがよくあります。
見積もりを取る前に、まずここを試してほしい。
なお、タレ止めの本質は「粘度を上げること」ではありません。
静置したときに構造が戻るかどうか、いわゆるチキソ性の話です。
材料メーカーに相談するときは、この言い方をしたほうが話が早く進みます。
濡れ性や接触角といった界面の話は現場のカンで語られがちですが、日本接着学会のように学術領域として体系立っている分野でもあります。
その4:ポンプの中の気泡
吐出量がロットごとにバラつく、という症状なら、気泡を疑います。
原因は大きく2つです。
- 入荷した材料にすでに気泡が混ざっている
- 圧力や温度の変化で液の中に溶けていたガスが出てくる
どちらにしても、ポンプ内に空気が残っていると吐出量は変わります。
そしてタチが悪いことに、マイクロバブルやナノバブルは目で見えません。
「ちゃんと出ているのに量が合わない」ときは、脱泡を疑う価値があります。
ちなみに経済産業省 近畿経済産業局の関西ものづくり新撰には、ポンプのプランジャー動作軸上に空気を自動排出する穴を設けて吐出精度を上げた、という国内メーカーの開発事例が出てきます。
メーカー側も課題として織り込んで設計しているわけです。
その5:それでも直らないなら、吐出方式そのものを疑う
ここまで潰してまだ安定しないなら、最後にようやく装置の話になります。
ただし「壊れているか」ではなく「方式が合っているか」です。
エア圧をかけて時間で吐出量を決める方式は、構造がシンプルで安価ですが、液の粘度が変われば出る量も変わります。
一方、ピストンやロータの体積で計量する容積計量方式は、粘度が多少動いても吐出量のバラつきが小さい。
季節や材料ロットで粘度が動く現場に、粘度依存の大きい方式を使っていること自体が原因、というパターンです。
これは故障ではないので、いくら点検しても直りません。
このあたりの方式の違いは、ディスペンサーという装置の吐出方法を整理した解説ページにエアシリンジ方式・チュービング方式・容積計量方式と分けて書かれています。
自社の設備がどれに当たるのかを確認するだけでも、切り分けの精度が上がるはずです。
また、先端に液ダレをカットする弁を持たせた機種や、ノズルを引き上げる動作そのものが要らない非接触方式もあります。
糸引きは引き上げ動作と切り離せない現象なので、動作をなくせば原因をひとつ丸ごと消せます。
最後に:不良の判定基準を先に決めておく
もうひとつだけ。
「タレている」「許容範囲」の線引きが人によって違う現場は、対策を打っても評価ができません。
引張せん断やはく離など、接着の試験方法はJISとして整理されています。
強度で判定するのか外観で判定するのかを先に決めてから、対策に入ってください。
装置が悪いんじゃなくて、選び方と条件の出し方が悪い。
私はいつもそう思いながら現場に入っています。
まずは温度計を1本、ノズルの手前に当ててみるところから始めてみてください。
