先延ばし癖をなくしたい人へ。仕事が速い人が「この1分」でやっていることに学ぶ着手のコツ

金曜の夕方、デスクの上に「来週月曜までに」と頼まれた取引先向けの見積資料が残っていました。
火曜に頼まれて、手を付けたのは金曜の17時すぎです。
時間がなかったわけではありません。
メールを返し、会議に出て、ほかの細かい作業を片付けているうちに、なぜかその資料だけが後回しになっていました。

はじめまして、食品メーカーで営業企画課の課長をしている宮下遼です。
部下5人のチームをまとめながら、自分も数字を持って動いています。
個人のブログでは、働く30〜40代に向けたビジネス書のレビューを5年ほど書いてきました。

冒頭の見積資料のような経験は、課長になってからむしろ増えました。
やることが多いほど、気の重い仕事から目をそらす理由も増えるからです。

この記事では、先延ばしがなぜ起きるのかを心理学の研究から整理し、2026年10月に出た林健太郎さんの新刊『仕事が速い人が「この1分」でやっていること』をヒントに、私が職場で続けている着手の工夫を紹介します。
「分かっているのに手が動かない」と自分を責めている方の参考になればうれしいです。

先延ばしは怠けではなく「嫌な気分」から逃げる行動

先延ばし癖がある人は、自分のことを「意志が弱い」「だらしない」と考えがちです。
私もそうでした。
ところが研究者の見方は、少し違います。

「損をすると分かっていて遅らせる」のが先延ばし

カナダ・カルガリー大学のピアーズ・スティールは、2007年に先延ばしの研究をまとめた論文で、先延ばしを次のように定義しています。

「遅らせると自分にとって不利になると分かっていながら、予定していた行動を自分の意思で遅らせること」

ポイントは「分かっていながら」の部分です。
期限に追われて苦しくなるのは本人も承知しています。
それでも手が止まるのですから、知識や心がけの不足だけでは説明がつきません。

同じ論文では、大学生の80〜95%が先延ばしをするという先行研究の推定も紹介されています。
先延ばしをする人の95%以上が「減らしたい」と考えている、という数字もあります。
多くの人がやっていて、しかも多くの人がやめたいと思っている行動だということです。

この論文はスティールの論文(Psychological Bulletin、2007年)で読めます。

「時間管理の問題ではない」という指摘

先延ばしの研究で知られるカナダ・カールトン大学のティモシー・パイキル教授は、大学のニュース記事で次のように話しています。

「先延ばしは感情調整の問題です。時間管理の問題ではありません」

気の重い仕事を前にすると、不安や面倒くささといった嫌な気分が湧きます。
その気分から一時的に逃げるために、別の作業に手を伸ばす。
これが先延ばしの正体だという見方です。

私の見積資料もまさにそうでした。
取引先の要望が細かく、数字の根拠を詰めるのが面倒だったのです。
その面倒くささから逃げるように、すぐ終わるメール返信に流れていました。

パイキル教授は同じ記事で、「やる気が出るまで待たなくていい」とも言っています。
そのうえで勧めているのが、「始めるとしたら、次にやることは何か」と自分に問うことです。
注意を嫌な気分から次の行動へ移す、という考え方です。

記事はカールトン大学のパイキル教授の紹介記事で読めます。

職場で後回しにされやすい仕事には共通点がある

スティールの論文では、先延ばしと関係が強い要因として、課題そのものの嫌さ、「自分にはできそうにない」という感覚、気の散りやすさなどが挙げられています。
これを職場の仕事に当てはめると、後回しになりやすい仕事の姿が見えてきます。

後回しになりやすい仕事職場での例最初の1分でできること
ゴールがぼんやりしている「いい感じにまとめておいて」と頼まれた資料依頼主に確認したいことを1行で書き出す
量が多くて終わりが見えない半年分の売上データの分析最初に開くファイルだけ決めて開く
気まずさが伴う取引先への値上げのお願い、クレームの返事最初の一文だけ下書きする
うまくできる自信がない初めて担当する社内プレゼン過去の似た資料を1つ探して開く
期限が先2週間後が締め切りの企画書ファイルを作ってタイトルだけ入れる

どれも「頑張れば終わる」仕事です。
ただ、取りかかる瞬間に嫌な気分がまとわりつきます。
だからこそ、気合いで片付けるより、最初の1分を軽くするほうがうまくいきます。

「この1分」の第2章の見出しをヒントにした着手の工夫

林健太郎さんの『仕事が速い人が「この1分」でやっていること』は、1分で試せる仕事の習慣を40個集めた本です。
第2章のタイトルは「先延ばしとダラダラをなくす『始める1分』」で、次のような見出しが並んでいます。

  • 「今日が期限のもの」の着手順だけ決める
  • スマートフォンを1分カバンにしまう
  • 1分を1コマとして積み上げる
  • メールを「冷蔵庫」に仕分ける
  • おっくうな仕事は1分で分解する

各項目の詳しい中身は本で読んでいただくとして、ここでは見出しをヒントに、私が自分の職場で試していることを書きます。
あくまで私なりの解釈と実践です。

着手の順番だけを朝に決める

以前の私は、朝にその日のToDoをすべて書き出していました。
ところが15項目も並ぶと、見ただけで気が重くなります。
結局、一番簡単なものから手を付けて、肝心の仕事は夕方まで残っていました。

いまは「今日が期限のもの」だけを抜き出し、手を付ける順番だけを決めています。
全部の段取りは組みません。
順番が決まっていれば、1つ終わったときに「次は何をやろう」と迷う時間がなくなります。

「いつ、何から始めるか」を前もって決めておくと行動に移しやすいことは、心理学では「実行意図」という名前で研究されてきました。
「10時になったら見積資料のファイルを開く」くらい具体的に決めると、私の場合は着手が明らかに早くなりました。

おっくうな仕事は「最初の一手」まで分解する

気の重い仕事は、大きなかたまりのままだと手が出ません。
そこで、1分あれば終わるくらいの最初の一手まで分けます。
たとえば冒頭の見積資料なら、こんな具合です。

  • 前回の見積書のファイルを開く
  • 取引先からのメールを読み返し、要望を3行でメモする
  • 根拠が足りない数字に黄色いマーカーを引く
  • 確認が必要なことを社内チャットで1件だけ聞く

どれも1分でできます。
先ほどのパイキル教授の「次にやることは何か」という問いを、紙の上でやっているのに近い感覚です。

分解するときは、「考える」「検討する」のような動詞を使わないようにしています。
「開く」「書く」「聞く」のように、手を動かす動詞で書くと、やることがはっきりします。

1分だけやって、続けるかを決める

第1章には「1分単位で考える」という項目があり、ライフハッカー・ジャパンに掲載された印南敦史さんの書評でもその一節が紹介されています。
作業を始めるときに1分のタイマーをかけ、1分経ったら一度手を止めて、続けるか別の作業に移るかを自分に問う、というやり方です。

私はこれを、気の重い仕事の入口に使っています。
「1分だけなら」と思えると、取りかかるハードルが下がります。
実際には、1分で止める日はあまりありません。
始めてしまえば、そのまま続けられることのほうが多いのです。

先日も、気の進まない社内報告書を「1分だけ」のつもりで開きました。
見出しを3つ打ち込んだところでタイマーが鳴りましたが、そのまま20分ほど書き進めていました。
止めてもいいと決めてあるから、かえって続けやすいのだと思います。

この感覚を裏づける研究もあります。
2025年に発表された、中断された作業に関する研究をまとめたメタ分析では、途中で中断された作業が後で再開される割合が、加重平均で67.00%でした。
いったん手を付けた作業には、戻ってきやすい傾向があるということです。
1分でも手を付けておけば、次に戻る足がかりになります。

論文は中断した作業の再開に関するメタ分析(Humanities and Social Sciences Communications、2025年)で公開されています。
ちなみに同じ論文では、「やりかけのことはよく記憶に残る」というツァイガルニク効果のほうは支持されませんでした。

スマホは「触らない仕組み」を作るためにしまう

「スマホが近くにあるだけで集中力が落ちる」という話を聞いたことがある方も多いと思います。
ただ、この点は研究者のあいだでも結論が割れています。
シンガポール経営大学などのチームが2024年に発表したメタ分析では、33の研究を統合した結果、スマホが置いてあるだけでは認知機能に有意な影響は見られませんでした。
詳しくはハルタントらのメタ分析(Technology, Mind, and Behavior、2024年)で確認できます。

それでも私は、気の重い仕事を始める前にスマホをカバンにしまっています。
理由は、置いてあること自体よりも、手に取ってしまうことのほうが問題だからです。
資料作りが少し面倒になった瞬間、ニュースアプリを開きたくなる。
嫌な気分から逃げる先を、物理的に遠ざけておくわけです。

部下の先延ばしに気づいたときの声のかけ方

課長という立場だと、自分の先延ばしだけでなく、部下の先延ばしにも向き合うことになります。
以前の私は、締め切りが近づくと「あれ、進んでる?」と聞いていました。
こう聞かれると、部下は「やります」と答えるしかありません。
そして、その仕事はまた翌日に回ります。

いまは「最初の一手は何にする?」と聞くようにしています。
部下が「まず前回の資料を見ます」と答えたら、「じゃあ今日はそこまでで大丈夫」と返します。
責められる気まずさがない分、部下もその場で手を付けやすくなるようです。

先延ばしが感情の問題なら、上司が焦らせるほど嫌な気分は強くなります。
最初の一手を一緒に小さくするほうが、結果的に早く進みます。

この本をおすすめしたい人

著者の林健太郎さんは、エグゼクティブ・コーチとして独立し、版元の著者紹介によれば延べ2万人以上のリーダーを指導してきた方です。
時間術の専門家ではなく、コーチングやリーダー育成の専門家が書いた本なので、会議や伝え方、部下との関わり方、疲れたときの立て直し方まで扱っているのが特徴です。

次のような方には、特に読みやすい一冊だと思います。

  • 時間術の本を読んでも、やることが多すぎて続かなかった方
  • 頼まれた仕事を抱え込みがちな方
  • 自分の先延ばしだけでなく、チームの動き方にも悩んでいる管理職の方

版元の編集部メッセージには、「全部を完璧にやらなくて大丈夫です」と書かれています。
40個の習慣を全部やる必要はなく、気になったものを1つ試せばいいという本です。
先延ばしに悩む人にとって、この気楽さはありがたいところです。

目次の全文や著者のプロフィールは、明日香出版社の『仕事が速い人が「この1分」でやっていること』紹介ページで読めます。

まとめ

先延ばしは、だらしなさや意志の弱さだけで起きるものではありません。
気の重い仕事から生まれる嫌な気分を避けようとして、手が別の作業に流れてしまう。
研究者はそう説明しています。

だから、気合いを入れ直すより、取りかかる最初の1分を軽くするほうが効きます。
この記事で紹介した工夫を振り返ります。

  • 朝は「今日が期限のもの」の着手順だけを決める
  • おっくうな仕事は、手を動かす動詞で最初の一手まで分ける
  • 1分だけやってみて、続けるかどうかを決める
  • 嫌な気分から逃げる先になるスマホは、カバンにしまう
  • 部下には「進んでる?」ではなく「最初の一手は何にする?」と聞く

全部やらなくてかまいません。
今日の仕事の中で、一番後回しにしているものを1つ選び、最初の1分だけ手を付けてみてください。